逆立ちしたって何も出てきやしない




同じ目に合えばいいという論調の想定後だったのは明白で嘆きも同調も救済も全ての感情がおこがましく思えてただ遣る瀬無さに横たわっている。

こんな時も自分を省みることしか出来ないけど、大事なものを思いつこうとして手の平を覗き込んでもやっぱり何も無かったりする。

居場所を作ったり与えたりという行動が声高に唱えられて、そもそもの現状だとか前提はいつだって無かったことにされている。他人に恐怖を覚えること思考がままならないこと集団行動にそぐわない振る舞いになってしまうこと自分の脳がコントロールできないこと声が出なくなること心拍数が跳ね上がることまともに呼吸ができないこと失敗の後の一人で見ているこの景色全てがこの網膜越しにしか存在しない世界。せっかくの対処法のはるか後ろの方でつまづいてる現実の自分に気付いてただもんどりを打った。



声を大きくしておけば平気でいられる。心が痛まなければ普通でいられる。意外だったのは御旗に掲げられたのが被害者サイドのメンタリティだったことぐらい。日頃は見下してるくせにさ。そう言いながらどっちがどっちかなんて最後まで分かりはしないのに。

いつだって大仰な主語の裏側で心痛めたのはいつの間にか化け物に仕立て上げられていた僅かな個だった。



群れからはぐれれば個では生きていけないことを知った。生き物とは群。そこまで考えかけて思考に静かに蓋をした。

頭の中で幾度となく繰り返した模擬訓練も現実の前では余りにも無力だったからだ。

微かに地面が振動している気がした。思わず半歩ほど後退った右足の靴底と床はコツリと音を立て一呼吸の安堵あと、にわかに空を切った。触れた先の床からガラガラと崩れ落ちていく。やけに冷静な頭が全てがもう手遅れなことを知らせた。大多数が否定した空に辿り着ける日を夢見た。やる事なす事後手になっていく逆さまの世界で。